Q. 令和2年4月1日以降開始の相続から、「配偶者居住権」が認められると聞いたのですが、どのような権利なのでしょうか?また相続税にはどのような影響があるのでしょうか?

A. 「配偶者居住権」とは、「被相続人の配偶者が相続開始前から住んでいた被相続人所有の自宅に、自宅の所有権を相続しなくてもずっと住むことができる」という権利です。配偶者保護の観点から、平成30年7月の相続法改正により創設され、令和2年4月1日以降開始の相続より適用されます。

1.権利創設の経緯と概要

これまでは、被相続人の相続財産のうち、配偶者が自宅を相続すると、生活のために必要な現預金を十分に相続できない場合がありました。

例えば、被相続人の相続財産が、自宅(2,000万円)と、現預金(3,000万円)で、相続人が妻と子1人のケースを考えてみましょう。

このケースでは、妻と子の法定相続分は2分の1(2,500万円)ずつとなります。仮に法定相続分で相続する場合、妻が自宅を相続すると、妻が自宅2,000万円と現預金500万円を相続し、子は現預金2,500万円を相続します。妻は住む場所は確保できましたが、生活資金は心もとない状況です。

しかし配偶者居住権創設後は、自宅2,000万円を配偶者居住権と、負担付所有権に区分することができます。仮に配偶者居住権を1,000万円、負担付所有権を1,000万円とすると、妻は配偶者居住権1,000万円と現預金1,500万円を相続し、子は負担付所有権1,000万円と現預金1,500万円を相続することになります。これにより妻は住む場所と生活資金を確保することができるようになるのです。

この権利は端的にいうと、配偶者と子どもの関係性が良くないケースを想定して作られた制度です。もし関係性が良ければ、仮に子が自宅を相続したとしても、そこに配偶者が住めば良いだけだからです。

2.配偶者居住権を取得する手続き

配偶者居住権は遺言書、遺産分割協議または家庭裁判所の審判で設定します。また自宅不動産に、配偶者居住権の登記をすることも必要となります。

3.相続税への影響

相続税の計算上は、配偶者居住権と負担付所有権に分けて財産評価を行います。上記1の例でいうと、配偶者は配偶者居住権(1,000万円)に対応する相続税を負担し、子は負担付所有権(1,000万円)に対応する相続税を負担します。ただし配偶者の税額軽減により、法定相続分または1億6,000万円までの相続財産の取得であれば、配偶者の相続税額はゼロとなります。

また配偶者居住権は、配偶者が死亡すると消滅するため、配偶者の相続時には評価額はゼロとなります。よって、例えば自宅2,000万円を子が最初から相続する場合と比べて、配偶者居住権を設定することにより、トータルの相続税額が減少するケースも出てくることになります。

詳しいことは税務の専門家である税理士にご相談ください。