Q.私は現在70歳ですが、自分の死後は長男に自宅を引き継いでもらいたいと思っています。私には息子が3人おりますが、恥ずかしながら仲が非常に悪いので、やはり遺言を書いておくべきでしょうか?

A.遺言ももちろん有効ですが、確実に長男に引き継がせたい場合は、生前に贈与する方法もあります。ただし不動産を普通に贈与すると高額の贈与税がかかりますので、相続時精算課税制度の利用を検討すると良いでしょう。なおこの制度を利用すると将来の相続税が増加することもありますので、適用の検討は慎重に行ってください。

自宅など特定の財産を特定の相続人に引き継がせたいという要望は多くあります。その場合、通常は遺言書を書くのが一般的ですが、遺言書を書いてもその有効性をめぐって相続人同士が揉める可能性はゼロではありません。また相続人同士で遺言と異なる内容で遺産を分割してしまうこともあり得ます。

もし自分の目の黒いうちに財産を引き継いで安心したいということであれば、生前に贈与もしくは売買するという方法が考えられます。ただ親子間の売買で引き継ぐケースは稀なので、通常は贈与を検討することになります。

生前贈与で引き継ぐ場合に一番ネックになるのが贈与税です。通常の暦年課税制度を使う場合、年間110万円までの財産なら贈与税がかかりませんが、不動産の場合は評価額が数百万~数千万円になり、贈与税負担が数百万円ということもザラです。そこで贈与税の計算方法の特例である相続時精算課税制度を検討することになります。

相続時精算課税制度は親から子(もしくは祖父母から孫)に対して財産を贈与する場合に、2,500万円までの部分については贈与税をかけずに贈与できる制度です。また2,500万円を超える部分については一律20%の課税となります。

一見すると暦年贈与に比べて非常に有利に思えますが、相続時精算課税制度を使って贈与した財産は、実際に相続が起きた場合に、贈与時点の価額で相続財産に足し戻して相続税を計算する必要があります。よって通常は相続税の節税効果はありません。相続税の節税効果がないことや、その他にも注意点があるため、それほど一般的に使われる制度ではありませんが、今回のように生前に特定の財産を特定の相続人に確実に引き継ぎたいというケースには有効です。

ちなみに土地をこの制度で贈与する場合の注意点としては、相続税の計算の際に小規模宅地の特例という土地の評価額を下げる特例が使えなくなる点が挙げられます。小規模宅地の特例が使えるかどうかで相続税が数百万円以上変わることがありますので、最終の相続の際にどんな影響があるかまで慎重に検討して利用を判断してください。

詳しいことは税務の専門家である税理士にご相談ください。