Q.私は個人商店を長年営み、複式簿記により記帳し、税務申告については所得税の青色申告を毎年行っております。近年、健康上の問題が生じて廃業するつもりでいたところ、会社員をしていた息子から店を引き継ぎたいという申し出があり、息子へ店を任せるつもりでおります。
A.「個人版事業承継税制」という制度が活用できます。
解説
個人の事業承継では事業用資産の贈与や相続にかかる税負担がネックとなり、円滑な事業承継の妨げとなっていることが問題とされてきました。そこで、令和元年度の税制改正において創設された「個人版事業承継税制」において事業用資産の贈与や相続に関する税額を猶予する措置が講じられました。その主な特徴は次の通りです。
- 平成31年1月1日から令和10年12月31日までの期間内の贈与・相続等で事業用資産を承継した場合に適用できる
- 土地、建物だけでなく、その他の事業用資産(機械、器具備品、車両運搬具、生物、特許権など)も対象となる
- 事業用資産にかかる贈与税・相続税が猶予され、後継者死亡などの一定の条件により納税が免除される
- 土地に関しては小規模宅地等の特例(特定事業用)※との選択制となる
※被相続人等の一定の事業用の宅地等につき、400㎡を上限として評価額を80%減額する制度
特に注意点すべき点として、「小規模宅地等の特例」と「個人版事業承継税制」とのいずれかを活用するかによって税負担が異なることとなるため、綿密な検討を要します。具体的には、相続人の人数、保有資産のうちの土地の占める割合、債務の額、贈与する場合は、暦年課税制度、相続時精算課税制度のいずれを用いるか等を考慮する必要があります。
また、個人版事業承継税制の適用に当たっては「個人事業承継計画」を策定し、都道府県知事の事前確認を受けておく必要があります。当該計画には、先代経営者が営んでいた事業を承継するための施策を記載します。具体的には、承継すべき事業の現状分析を行い、課題設定し、その対応策を立案し取りまとめることを要します。なお計画書の提出は令和6年3月31日が期限となっていますので、個人版事業承継税制の適用を検討されている方は、とりあえず計画の提出だけは行っておく方が良いでしょう。
さらに個人版事業承継税制は、後継者が途中で事業廃止した場合等、一定の要件に該当した場合は、猶予されている税額のうち全部または一部および追加の利子税を支払う必要があるため注意が必要です。
詳しいことは税務の専門家である税理士にご相談ください。