Q. 父が創業した会社(同族会社)を数年前に引継ぎ、代表取締役社長として運営してきましたが、事業承継に目途が立ったため、この度、代表取締役会長である父が取締役から外れ、勇退することとなりました。父に退職金を支給しようと思いますが、法人の経費になりますか? また、支給に際して注意することはありますか?

A. 役員退職金は、基本的に法人の経費になります。ただし、経費に算入する時期や支給額、源泉所得税等については注意が必要です。

1.なぜ経費になるか

少し複雑な内容ですが・・・
法人税法では、同族会社の役員給与(役員に対するいわゆる月々の報酬や賞与)は、次のものを除き損金(経費)に算入しない。とされています。

⑴ 定期同額給与(毎月同額の給与。ただし例外あり)
⑵ 事前確定届出給与(一定の時期に事前に税務署へ届け出た賞与)
⑶ 一定の業績連動給与(非同族会社などが対象)

つまり、⑴⑵⑶のみ損金に算入されるということです。

ただし、役員退職金は、この規定からは除かれているので、結果的に損金になるということになります。

2.経費に算入する時期

法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは損金の額に算入されます。その退職金の損金算入時期は、原則として、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度となります。ただし、法人が退職金を実際に支払った事業年度において、損金経理をした場合は、その支払った事業年度において損金の額に算入することも認められます。

3.支給額の決定

同族会社の役員退職金は、上述の通り経費になりますが、法人税法では、「不相当に高額な部分は損金(経費)に算入しない」と規定しています。

不相当に高額かどうかは、退職金規定、最終月額報酬、勤務年数、功績倍率、過去に退職金の支給を受けたことがあるかどうか、類似規模の同種同業の法人の退職金などを考慮して、総合的に勘案するとされています。

ただし実務的には、類似規模の同種同業の法人の退職金の額を知る術は限られており、不相当ではない相当な退職金の額を算出するのは難しいのが現状です。

4.退職金の税額計算

退職金には、下記のような退職所得控除というものが設けられています。

 勤務年数 20年以下・・・40万円×勤続年数

 勤続年数 20年超・・・・800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 上記の控除額を超える場合には、超える部分の1/2が退職所得となります。

なお退職金等支払の際に「退職所得の受給に関する申告書」を提出している人については、退職金等の支払者が所得税額及び復興特別所得税額を計算し、その退職手当等の支払の際、退職所得に応じた所得税額が源泉徴収されるため、原則として確定申告は必要ありません。

一方「退職所得の受給に関する申告書」を提出がなかった人については、退職金等の支払金額の20.42%の所得税額及び復興特別所得税額が源泉徴収されますが、受給者本人が確定申告を行うことにより所得税額及び復興特別所得税額の精算をします。

5.父の確定申告

退職金は、分離課税といって、給与所得や不動産所得などの他の所得と分離して課税する仕組みがとられています。「退職所得の受給に関する申告書」を提出して退職金の支給を受けた場合は、確定申告が不要か、他の所得があって確定申告をする場合も退職金を含める必要はありません。

ただし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出せずに支給を受けた場合や、複数カ所から退職金の支給を受けた場合は、確定申告が必要な場合がありますので、注意が必要です。

6.最後に

以上のように、役員退職金を支給する場合、複数の税目を検討する必要がありますし、支給額や支給時期、支給後の資金繰りなど総合的な判断が求められます。

税理士などの専門家と相談しながら決定していくことをお勧めします。

※このQ&Aシリーズは、掲載された時点での法令等に基づき掲載しております。過去のQ&Aをご覧になる場合、最新の取り扱いと異なる内容が含まれている可能性がございます。詳しくは税務の専門家である税理士にご相談ください。